【外国いい話】「美しい日」

パリ フランス外国人のいい話
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187 :異邦人さん:03/09/14 06:58 ID:2P5o0Qcp
随分昔、初めてパリに行ったのは晩秋だった。
パリ植物園の樹々もすっかりはを落としていたけれど、
1本の桜の木が印象に残った。大きな木で、真下にベンチがある。
まるでベンチを覆うように、大きな枝が幾重にも垂れ下がっている。
春の花の頃にはあのベンチはきっと花に囲まれているだろう。
そこに座ったらどんな気持ちになるだろうと思った。
それから何度もパリに行ったけど、花の季節には行けなかった。
でも数年前、ようやく5月のパリに行くことができた。
パリについた翌朝、まっさきに植物園へ行った。
遠くから見てもあの木が満開なのがわかる。

胸がドキドキして痛いくらいだ。
近くで見ると、枝は花盛りで、ほんとうにベンチが見えない。
そっと枝をくぐってベンチに座る。
走ってきたので動悸が早い。とりあえず深呼吸する。
ゆっくり息を吐いた途端、涙があふれた。

涙があとからあとから出てきて止まらない。
朝のほとんど人影がないことをいいことに、

大の大人が声を上げて泣いてしまった。

初めてパリに来てこの木を見たときに一緒にいた人は、
もうこの世にいない。
その人とは「いつかあの木の花盛りを見たいね」とよく話したものだ。
これまで春のパリになかなか来られなかったのは、怖かったからだ。
あの木の花が咲いているのを見たくなかったからだ。
でもようやく、春のパリに来ることができた。
私はようやく、この花を見ることができるようになった。

しばらくすると涙が涸れてきて、少しぼんやりした。
そのとき、枝をくぐって初老の男性が顔を覗かせた。
「あ、失礼」とその人は言って、ここに座ってもいいかと尋ねた。
私は少し移動して1人分の席を空けて、「どうぞ」と言った。
男性は私が泣いているのに気付いたが、別にそれには触れず、
「今日はとてもいい天気だね」と言った。
フランス語では「いい天気」は「美しい日」という言い方をする。
それがなんだか、すごく身に沁みた。

引用元: https://love6.5ch.net/test/read.cgi/oversea/1033250805/

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